もちろん弾けるようになります。むしろ、大人からバイオリンを始める人にとっては、はじめにフレットバイオリンを使うのが上達の早道です。
バイオリンは最初のハードルがものすごく高い楽器です。高すぎる段差にフレットという一段を設けることで、スムーズにハードルを乗り越えられます。これだけでも上達スピードが格段に早まります。
あるいは、フレットは「自転車における補助輪」に例えてもよいでしょう。補助輪を使って自転車の乗り方を覚えれば、そのうち補助輪なしの自転車に乗ることができるようになります。
また、最初に説明した「楽しさを先取りして、曲を弾くところから始められる」というフレットバイオリンの特徴は、いわば「転びながら自転車の乗り方を練習する前に、サイクリングの楽しさを味わえる」ことと同じです。実はこの
「楽しさの先取り」が上達の秘訣です。
要はモチベーションの問題です。普通のバイオリンを使って、音程の狂った気持ちの悪い音を出していても、何も知らない小さな子供は気にせず練習を続けられます。しかし、私たち大人は、既にきれいなメロディや素晴らしい音楽を知っています。そのため、自分の出す酷い音にがっかりしますし、その状態が長く続けば挫折してしまいます。
私たち大人は、限られた趣味の時間をできるだけ有意義に楽しく使いたいのです。バイオリンを楽しく弾けるようになるまでに時間がかかりすぎるなら、バイオリンの修行からドロップアウトし、他の楽しみを優先させるでしょう。
フレットバイオリンの最大の効果は、「楽しさの先取り」により、このドロップアウトのリスクを減らすことなのです。
■ フレットバイオリンならではの使い方ってあるの?
プロのバイオリニストによるフレットバイオリンの新しい使い方が広がっています。
プロユースとしては、バイオリンが本職ではないプロの音楽家(ギタリスト等)が、楽曲の録音にフレットバイオリンを購入するケースが多数あります。しかし、フレットバイオリンは、本来は「簡単に弾けるバイオリン」ではなく、普通のバイオリンとは「別の楽器」です。そこで、フレットバイオリンならではの特性を活かした新しい使い方が、主にプロのバイオリニストによって模索されてきました。
最近では、エレキ・フレットバイオリンとエフェクター(ルーパー等)を汲みあわせて、一人多重演奏をするパフォーマンスが人気です。このような多重演奏では、録音により何度もループするメロディには特に正確な音程が求められます(何度も音程の狂ったメロディがループすると台無しですよね)。そのため、プロのバイオリニストもフレットバイオリンを使います。写真は、中西俊博さんの6弦のエレキ・バイオリンに、エルデ楽器がフレットを取り付けピックアップを改造した楽器です。
例えばコード弾きやライトハンド奏法など、普通のバイオリンではあり得ない演奏でも、フレットバイオリンで試す価値があります。まだ誰もやったことがないことですから。貴方がもし旺盛な開拓者精神の持ち主なら、是非フレットバイオリンのオーナーになって、この楽器の新しい可能性を見出してみませんか?